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Steam Locomotiveこと略して「SL」。
そう、あの勇ましい排気音と共に重厚な鉄の塊りがレールを軋ませながら進む「蒸気機関車」のことです。
SLが相次いで廃止となった1970年代初頭、最期の勇姿を収めようと鉄道ファンやオーディオファンたちが手にしたのは、ポータブル型カセットレコーダーでした。
ビデオカメラ誕生前の当時に「動くモノ」の収録を出来たのは「音」だけだったという制約があった事や、当時ソニーが「デンスケ」なる高機能ポータブル型カセットレコーダーをタイミングよくリリースしていた事が重なって、いわゆる「生録(なまろく)ブーム」が到来します。
私は世代的に当時のブームを体感することは無かったものの、高校時代に部活動として取り組んだ放送部にてカセットデンスケ「TC-D5」を使って、アナログレベルメーター合わせに格闘したのは懐かしい思い出。セッティングによって音質が大きく異なる生録の面白さに足を突っ込んだ青春時代でした。
あれからおよそ30年の時を経て、
いま愛用しているのはZOOM社(本社:東京)のハンディレコーダー「ZOOM H1」と「ZOOM H6」。
エレキギター用のエフェクターやMTR(マルチトラックレコーダー)など、電子楽器・音響分野を手がけるZOOM社(※昨今のテレワーク等で話題となっている米国のZoomビデオコミュニケーションズ社とは別です、念のため)は、様々なハンディレコーダーをラインナップしています。
同社のラインナップで、最も安価なエントリーモデル「ZOOM H1」と、最もハイエンドなモデルの「ZOOM H6」。ともに現在ではオープンプライスとなっていますが、参考価格として「H1」が「税別10,800円」、「H6」が「税別44,000円」と実に4倍もの差があります。
ネット上には、それぞれの録音比較がたくさん掲載されていますが、総じて云うならば「H6」は厚みと深みのある立体的な高音質で収録でき、「H1」は手軽ながらも解像度の高い音が収録できる、そんなところでしょうか。
では、イコールコンディションを作りやすいCDからの演奏をスピーカーごしに録音した場合に、両者にどのような差が出るかに興味が出てきて、車内のオーディオ再生音を録音する方法にて比較検証してみました。
録音環境を敢えて車内としたのは、自宅リビングルームだと通りを走る車の走行音や空気清浄機の駆動音など、意外に生活ノイズに溢れているためです。
用いた車両は私の愛車・日産ムラーノ 350XV。BOSEサウンドシステム(ウーハー含め計11個のスピーカー)を搭載しているので、車内でも比較的安定した高音質が愉しめます。
車を人里離れた森に移動し、エンジンと空調を切った状態で車内オーディオを再生し、「H1」と「H6」両者について音の傾向を比較してみました↓
総じて感じるのは、安価な「H1」の健闘ぶりでしょうか。
前半のAtlantic Brass Quintetの曲「New Year’s Gift.」は、高音質録音からリファレンスCDに用いられる事も多いのですが、伸びやかな高音がしっかり録れているのは立派です。
後半に流れるClair Marloの「Too Close」も同じくリファレンスCDに用いられる定番曲ですが、さすがに低音部分では音が響いて割れ気味。BOSEの力強い低域の音圧には叶わなかったようです。
次に価格差4倍の「H6」に注目すると、全体的に感じるのは安定感でしょうか。
前半のAtlantic Brass Quintet「New Year’s Gift.」ではあまり差は感じられず、下手したら下位モデル「H1」の方が高音の伸びが良いようにさえ感じてしまいますが、「H1」は若干高音が耳に刺さるようなキツさが感じられるのも確か。
「H6」ではそうした感じもなく、耳で聴いた感じに近いと言えます。後半のClair Marlo「Too Close」のように広域から低域まで幅広く厚みのある音色が出る曲では「H6」の圧勝で、全てが収まりよく録れています。
「H1」と「H6」では、録れる音の傾向に違いがあることや、とりわけ「H1」では不得意となる場面も見えてきたのも興味深い結果と考えます。とはいえ価格を考えれば「H1」の性能は素晴らしく、ほぼ日常的に用いるステレオ録音で困ることは無いでしょう。
一方の「H6」についてはハイエンドモデルだけあってオールジャンルでこなす安定感・安心感がありますが、H6の真髄は操作性の良さと最大6トラックの録音を可能としている点にあると考えます。
操作性といえば「H1」で最も難儀するのが録音レベル調整がボタン式なこと。
本体横のボタンをカチカチと操作して録音レベル調整するのは実に難儀であったのですが、2017年末にモデルチェンジし「H1n」となってからは録音レベルがツマミに変更される等、大幅な改良が成されています。
新型「H1n」を1台持っていれば、演奏会の録音からナレーションの録音まで、ほぼ通常のユースケースではパーフェクトにカバーできるのでは無いかと感じています。
カセットデンスケの時代から比べると、信じ難い程の未来に到達したものだなぁ、と感じるアラフィフおじさんデシタ。〔了〕